「オブリビオン」と「東宝東和」について

ネタバレ的なことはなるべく回避しつつと思っているのですが、興味無い方にも観て頂きたいから、どうしても記しておきたい魅力的な部分もあるし、とりあえず、その辺ご注意ください。

文明崩壊後の地球。記憶を失ったトム・クルーズが色々な残務処理に従事しております。どうやら色々な謎がありそうです。


この映画、はっきりいって珍作の類いだと思います。全編に渡ってフワッフワしまくり。要因は色々あるのですが、とりあえず、根っこの構成が中々アレな為、1シークエンス1シークエンスがブツブツに分断されてる印象を受けます。なんつーか、尺が10分ぐらいあるゲームのデモムービーを――プレイ部分はぜーんぶカットした状態で――延々連続で見てるような気分。序盤、主人公のジャックは、警備用ロボット(?)「ドローン」を回収メンテするため、かつて図書館だったと思われる廃墟に侵入します。その内部は崩落しまくりで地面もパッカーンと割れてる級の荒れ具合なんですが、その谷間部分の上に絶妙な塩梅で鉄骨が横たわっているんですよね。それを渡ればなんとかドローンに辿り着ける!はい!レディゴー!ってカンジでじつに芳ばしい。こういうのって、イイ作品だと違和感なくスッとみせてくれるのでしょうが、この作品では、そういうのがいちいちノイズになるんですよね。でもそれがイイんですよね。


いや、でも、ホント申し訳ないけど、他の演出も中々アレでして。例えばです、ジャックは夢で見た――けど実際にみた記憶はない――展望台と望遠鏡を現実の世界で発見するくだりがあるんですね。そこの演出がすげーイイカンジでして、どうなってるかっつーと、その望遠鏡が在る施設に辿り着いた時、この作品の編集陣は、ジャックに先んじて、我々観客に望遠鏡の存在を見せてくれるんですよね。ジャックはまだ気づいていないけど我々は知ってる――この順番でみるとさ、完全に「志村後ろ後ろ!」ってなるんですよね。最高すぎます*1。つかさ、ジャックはその施設に行くにあたって、ナゾの軍団に盗まれてたバイクを彼らから一旦返却してもらってんですけど、そのバイク、編集の都合なのかなんなのか、走り出してからソッコーで充電切れてるように映るんですよね。貸すほうも借りるほうもバカなんじゃねーの?ってなること必至でニヤニヤが止まりません。


あと、個人的にグッときまくったのはジャックがメンテしてるドローンのビジュアル&見せ方。その擬人化っぷりが絶妙でステキなのです。「マシンというよりモンスター」つーのをストレートに擬人化してるつーかなんつーか。うーん例えていうならザクレロ。そう、ザクレロ。ワタクシ的にはドローン=ザクレロですね。ザクレロってさ、擬人化つーかそれとは別モノじゃないですか?それに近いヴァイブス感じたんですよね。そんなこんなで、もうさ、そういうスイッチ入っちゃうとなんでも最高になってきちゃってですね、中盤、すったもんだあった結果、ジャックはドローンと空中戦を繰り広げることになっちゃうんですけど、迫ってくるドローンにググンとズームアップするのとか最高だし、ジャックの隣りに座ってるヒロインがずーっとおんなじカンジでビビっててコピペ感満載で最高だし、チェイス中、地面にチラリと自由の女神がみえるのも最高だし――ってカンジで、このくだりは面白さが加算加算で完全バブル化しちゃいましたね。
あ。ついでに、ドローン関係でもう一点最高に盛りあがったとこ書いておきますと、予想外の或る場所から通常版ドローンの二回りぐらいデカいドローンが登場するシーンがあるんですけど、そのデカいタイプのドローンがさ、「リヤカーに殻をかぶせたカンジ」で非常にモッサリしたヴァイブス放っててホントたまらなかったですね。うん、大なり小なりドローン出てくるとこは全部最高だったなあ。

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さて。ジャックはドローンの整備はじめ、各種残務処理に対してとても一生懸命、常に真剣に取り組んでいるのですが、じつは彼、事務所には内緒でこっそり「俺だけの隠れ家」を作ってたりします。この隠れ家に行くとこも最高でさ、事務所に「今から超重要な商談に入るからケータイ切っとくわー」つーエクスキューズいれといて、仕事中に福原のソープにいったK君のことを思い出さずにはいられませんでした。
つかさ、後半、ジャックはヒロインを隠れ家に連れてって、仕事中に収集してきたレコードをかけちゃったりなんかしちゃうわけですが、そこでチョイスする曲っていうのがプロコル・ハルムの「青い影」なんですよね。これがさ、皆さまご存じの通り、超絶メロウなカノン進行なもんだから、ワタクシ、逆に盛大に吹き出してしまったんですよね。これはもう、エガちゃんにおける「スリル」、ビッグダディにおける「さすらい」に並ぶ衝撃だよなあなんて思・っ・て・た・の・で・す・が――
ここから、急展開、そのメロウな音楽に合わせて、ジャックがヒロインに語りかけ始めるんですね。ようするに、ここまで我々観客が見守ってきた彼は大量生産されたクローンのうちの一体にすぎず、つまり、自分はオリジナルではないことを認識し、そのことをヒロインに語りかけ始めるわけです。ワタクシ、このジャックの語りが始まった瞬間、さっきまで爆笑してたのにもかかわらず、一気に半泣き状態、さらには、それを受けてヒロインがさ「でも貴方は貴方よ」なんて言うもんですから、完全に涙腺決壊してしまいガン泣きしてしまいました。ニヤニヤシーンの積み重ねに因るトップギアでの暴走状態から急転、いきなりギアをバックに入れちゃったってカンジのショック展開で、ホント堪りませんでした。
大体さ、こういう展開になると、我々観客が見守ってきた人物ってのは、アイデンティティの危機に陥ったけど最終的にはオリジナルだということが判明して――となるケースが多いように思います。しかし、この作品はそうじゃない。もし、仮に「自分がオリジナルかリイシューか判別がつかず悩んでいる者」がいるとしたら――その答えは「オリジナルかリイシューか」という問いの先には、無い――「オリジナルかどうか」、さらにいえば「正しいかどうか」つーのは、本人の意思が決めるものであり、そして、その上での他者の容認によって成り立つ――わけです。これって、時代の変化の結果のような気もしますよね。つまり、かつて音楽メディアがアナログ盤メインだった時代においては、間違いなくオリジナル至上主義ってのが存在してたわけですが、今って、複製の過程において劣化しないっつーのがフツーになってるから、何の何がどう価値があるのかっつうのは、良い意味で解らない時代になってるんですよね。そんな時代だからこそのアイデンティティ形成――ってのはあるのかもしれませんね。いまふと思いついたこじつけだけど。

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ところで。この作品、トム御大が主人公なわけですから、彼のザ・マンっぷりへの期待値も高かったわけですが、ワタクシ的には――作品自体はちょー楽しみましたが――ここ最近の他の作品ほどトム風速は感じなかったんですね。いや、でも、トムが「下からの三角」極めるところとか、トムが「オチる」ところとかは、ビューッ!!ってイイ風吹きましたけど*2。でもさ、この作品における最大風速は、トムじゃなくってモーガン・フリーマンからやってきたんですよね。いやあ、モーガン・フリーマンの最期のシーン、アレ、あまりの突風っぷりに心底驚愕しまして口がポッカーンてなりました。そこに至るまでの展開が理解できるようで、いまいち釈然としない、なんとも不可解なものでしたから「そのためかよ!!wwww」となること必至。いや、勢いで納得させられそうになるけど、やっぱおかしいのはおかしいんですけどね。でもさ、そんなのイイんですよね。楽しく騙されたらイイ。だってさ、配給は東宝東和なんですよ。これぞ古き良き東宝東和イズムというものです。そう考えると、「新旧SF作品のパーツを寄せ集めた」感満載の中身と、「ォブリビオンヌッ」つーナレーションはじめ重厚なイメージ醸し出してる予告との関係も、じつに東宝東和ぽいような気がします。ああ、考えれば考える程愛おしくなる良い珍作ですね。

*1:なんて書きましたが、この施設、すなわち、エンパイアステートビルに対する認識の違いってのはあるのかもしれません。アメリカ人にとってはハナから当然の景色だからそこにサスペンスが入る余地は無いとか。

*2:つか、トム三角のくだりは最高な要素てんこ盛り。突然、主観が切り替わってのフラッシュバックとか、突然、ヒロインがぶっ倒れるとか盛りすぎててヤバいです。