十三人の刺客

内容シャットアウトしときたい方は読まないでネ

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切腹!お歯黒!眉毛全剃り!ダルマ!刺青!俺達の自慢したい日本!〉
キチガイのド外道お殿サマをこのままのさばらせていては藩の危機!!どころか日本の危機!!!〉
〈アンオフィシャルだけどお金バンバン使っていいから!だからお願い!!あいつをぶっ殺して!!〉

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まずさ、キチガイのド外道お殿サマ演じるのが、稲垣ゴローっていうのは大変味わい深いですね。
ゴローちゃんといえばさ、「ホステル」をメタクソに貶したで有名な方じゃん。「作る側も観る側もみな総じて理解不能のド外道」つったんでしょ。そんなゴローちゃんがさ、

「他者の痛みによってでしか自分の生を確認できないド外道」

を演じるなんて最高ですよね。ギャハハ。
んでさ、

町イッコを丸々大改造した殺人アトラクションに放り込まれる

わけでしょ。最高すぎますよね。ギャハハハハ。

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と、そんなゴローちゃんはさておき(いや、ゴローちゃんの絶妙な舌打ちとか良かったですけど、まあまあまあね)、役者陣、皆さんイイですよね。本当ステキすぎます。
役所広司・市川正親・平幹二郎が出てるときの画面の引き締まりっぷり&重厚感なんてハンパないですね。おもわず「これはニューディーズたりえるぞ!」と唸りました。あと、松方弘樹ね、弘樹。殺陣が流麗なんだな、コレが。「流れるような刀捌きからの〜〜キメ顔!!」とかほれぼれします。

若い人たちもよくって、アレだね、山田孝之ってエロいね。
博打やって飲んだくれてグダグダになってるとこの色気ってなんなんでしょうか。どういうつもりなんでしょうか。抱かれてもイイと思ってしまうぐらいエロい。抱かれてもいいといえば、伊勢谷くんもイイ。岸辺一徳との絡みとか百点でしょ、百点。自信満々の顔でどこ見てんのか全然わからんあのカンジとか最高。


演出面では冒頭の切腹シーンが超イイですね。肉を斬る音がイヤでイヤで仕方ない。あの段階でロックされました。あとは蹴鞠のシーンが秀逸だなあと思いました。アレだけで、いかにゴローちゃんが暴君かっつうのがよくわかるもんね。伏線(?)にもなってるし。

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というわけで、基本的には楽しかったし高評価なんですけど、もっとこうしてたら良かったのになーと思うとこもあって。って、こっからのボリューム結構あるけど、ボリュームの量が作品の好き嫌いに反映してるわけじゃないということだけお断りしときます。この映画、全然好きな映画ですんで!


いや、えと、何が言いたいかっていうと、タメが足りない場面があるというとこなんだな。


例えばさ、宿場町へ先回りするため、役所広司御一向が山ん中抜けるじゃん。んで「俺達はもう何者でも無いんだな」って言うじゃん。あそこって、結構あっさりしたカンジで話が進むけど、スゴい大事なことだと思うんだけどな。
どういうことかっつうと、あのシーンはさ、役所広司御一行が「漂白の民が暮らす山の中に足を踏み入れた=定住民の世界である江戸幕府世界から逸脱した」というイニシエーション的場面なわけですよね。そこをもっと丁寧に描いて頂けるとさ、親ゴロー派、つまり、組織の有様としての武士道を信奉する市川正親との対比がより一層浮き彫りになって、最後のバトルへのタメになったと思うんですよね。


んで、最後のバトル。まず尺が長いよね。「ベストキッド」や「鴨川ホルモー」とこでも書いたけど、邦画の最後のバトルシーンてボリューム有りすぎだと思うんだな。第3パート丸っぽ使うケース多いんだけど、どれもこれも大体冗長に感じる。あ、でも、今作においては、「絶命の瞬間に見る光景の陰惨っぷり」とか超良かったし、結局は描写の仕方なんだろうな。もっと三隅研次テイストでバンバン切り株っててくれたら印象違ってたかもしれないな(でもアレか、三隅テイストは今やスタンダードな感じもするので、「絶命寸前の陰惨方向」を極めて、石でガスガス殴るどころか、噛みついて耳や鼻食いちぎるなどといった、より獣方向に突出してくれてたほうが良かったかもしれないな)。


と、実際の殺戮描写も冗長さの原因なんですけど、もっと大きな原因は「ワイルド・バンチ」力の弱さによると思うんだな。13人対200人って滅茶苦茶絶望的な状況なわけじゃないですか。でも、あんまし「追い詰められてく」感が無いんだよね。なんせさ、結構早い段階で自分達でジェノサイドうち止めにしちゃうんだもんね。結果、タメが無くなって、次第に高まる恍惚感が無いんだよな。


つかさ、ゴローちゃんも13人の刺客も『死の中に生を見出す姿勢』は一緒なんだよね。でも、そのアプローチの仕方は全く正反対なわけで、‐13人の刺客がワイルドバンチ化することによって‐その違いをより明確に描いてみせてくれてたら、ゴローちゃんのド外道っぷりはより際立つし、さらにはラストがより一層味わい深いものになったのではないかなあと思ったりいたしました。


体裁としての武士道も魂としての武士道も結局はナンセンス。
つまり、まぼろしの市街戦ですよ。


ってオリジナルの「十三人〜」、約30分に及ぶクライマックスの殺陣シーンは時代劇映画史上最長とされるのか。ムムム。オリジナル観ないとダメだな、これは。