瞳の奥の秘密

〈なるほど、アカデミー取った映画だな〉


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内容シャットアウトしときたい方は読まないでネ


とにかく、なんとも細やかな絵作りと演出が素晴らしいですね。
やっぱまずはレイプ殺人現場でしょ。これが素晴らしい。ド外道のワタクシでさえも「レイプもののAVみてゲヘゲヘ笑いながらチンコしごいてるヤツらは皆地獄に堕ちろ!」と思ってしまうぐらいイヤなヴァイブス発してます。な・ん・だ・け・ど・同時になんとも美しい。やりよるで…この映画やりよるで!と大興奮(←もちろん映画の心意気に対してですので)


と、そういうキモのシーンが素晴らしいのは当然、その他、何気ないシーン一個一個がどれもこれも丁寧な絵作りしてて唸ってしまいます。
殺害された女性の旦那・モラリスが、その報告を受けるシーンでさえ、ケレン味ある構図で描いてていちいち魅せてくれます。細部へのこだわりがビンビン出まくり。


絵作りがよければ、演出もまた良い。主人公の上司であるイレーネの家族状況を説明するにおいても、いちいち言葉で説明するなんていう野暮天演出はしない。あくまで絵でみせる。オッシャレ(オシャレといえばイレーネの衣装がいちいち洒落とるんだな、これが)。


んで一大スペクタクルのサッカー場のシーン。ホントスゴい。俯瞰からあぁぁ〜〜、ピッチ上をなめてえぇぇ〜〜、観客席の熱狂と興奮!!!ウオーー!!!サッカー場は現代のコロッセウム!!!人間の蛮性の象徴!!!アルゼンチン&スペイン合作である必然性!!!イェーイ!!!


他も色々ね、あるわけですよ、とか写真立てとか。「あ。それそういう風に活きてくんのか!スゲ!」の連続。なんちゅうこつばしてくれとんんか…てなもんです。

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なのですが。


ラスト30分、映画的には見事なツイストだと思います。しかし、実録犯罪テイストを求めていた者としてはあまりに全てが腑に落ちすぎてしまってちょっとアレでした。


クソレイプ犯であるイシドロ・ゴメス、彼は、超法規的措置によって調子に乗りまくりの人生を送っていたかに見えたが、じつは法の外できっちり最大級の罰を受けていることが発覚する。
そして、彼に罰を与えているモラリスは、主人公の相棒であるパブロを殺害したという罪を背負っていたことが発覚する。
つまり、罪を犯した者が罪を犯した者を裁くという構図。


この構図は、我々観客を一気に安全な地点に運んでくれる。
つまり、ここまで語られてきた罪と罰の問題をすごい勢いで隠蔽してしまう。さらにさらに、その事実を知った主人公は意を決し、愛する女性に積年の思いを伝え---彼女は---ってさ---


腑に落ちすぎ。


ポン・ジュノ監督の傑作実録犯罪映画「殺人の追憶」を観て、その腑に落ち無さにシビれた者としては、この映画の腑に落ち具合はなんとも腑に落ちない。現実に起きる事件って、起こってしまった時点で納得のいく帰着などみせることの出来得ないと思うので。ヤダ味しか残らないモノだと思うので。
しかし、そういうのはアカデミーとは縁遠そうですよね。というわけで、この作品は良くも悪くもアカデミーを取った映画なのだなという印象を喚起させられたのです。

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し・か・し。


だからといって、それがこの映画の価値を落とすものではない。だってこの映画は最高最上級の恋愛映画であることには間違いないんだもの。冒頭の発言に戻るけど、ここまで細やかかつ素晴らしい絵作り&演出を施した恋愛映画は観たことが無い。冒頭の列車シーンはもちろんのこと、壊れたタイプライターのくだりや扉の開け閉め問題なんて、実に恋愛映画的なのにもかかわらず、そういうのに一番縁遠いワタクシみたいなド外道でさえ、余裕で2時間ロックしてくれるという、映画的魅力が溢れかえりまくりの傑作なのですから。

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というわけで。


最後の最後でもう1ツイストあったら超良かったのになー。
例えば、イレーネがなんらかの拍子でブラウスのボタン弾け飛ばしちゃってさ、胸元が開いちゃったりなんかしてさ、それを主人公が凝視して終わってくれてたりしちゃったりしてたら…。この物語って、あくまで主人公が書いている小説に基づいているという「物語的な物語」なわけですよね。主人公の描いた物語の中のレイプ犯の心情と主人公の心情が重なり合うことにより、より重層的な構造になって云々かんぬん…そして、その「腑に落ち具合」も一気に変態ぽさに転嫁され…ダメか…いやでもそっちのほうが変態による妄想恋愛話として突出し…むにゃむにゃ。

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【思案した結果追記!】
この映画、話がツイストするラスト30分までは−基本的にゃあ−主人公が書いた小説を基に進んでるんだよね。でも、そっからの30分は、現在進行形で話が進むわけ。でさ、ここ大事なポイントなんだけど、現在進行形のパートで主人公が知る「腑に落ちる」情報って---彼しか見ていないんだよね。つまり、主人公が最後にとる行動の動機部分である「とても腑に落ちる=とても都合の良い」情報は主人公しか知らないんだよね。


あまりに都合が良すぎる情報・・・主人公しか知らない・・・


本当にみたの?本当にあったの?そんな好都合なことが??


と思うと、その「腑に落ち具合」の意味合いが一気に反転、狂気宿ってくるじゃないか!!!怖い!!!傑作!!!!

(という妄想追記)