アンストッパブル

ちゃーーちゃらっちゃっちゃらっちゃー
ちゃらっちゃっちゃらっちゃー


ビヨンセ「crazy in love」の着メロが部屋に響きわたる。


オッオー
オッオー
オオーオオー

オッオー
オッオー
オオーオオー


「はい。もしもし。あ。お父さん。どうしたのよ。お姉ちゃん?うん、いるよ。バイトまでまだ時間あるし。でもさ、お父さん一体何しでかしたのよ、お姉ちゃんめっちゃ機嫌悪いよ。え?替わんの?はいはいはいはい、わかったわかった。あのさ、前から言おうと思ってたんだけどさ、お父さんもっとちょっとさ、自分の用件ばっか言うんじゃなくってさ、こっちの話聞いたりさ、なんていうの、キャッチボールぐらいしてよね。はいはい。だーかーらーわかったから!ちょっと待ってね。お姉ちゃーん!お父さんから電話!!替わってってさ!!」

「…イイ。忙しいっていっといて。」

「…もう…なんなのよ、いっつも私が伝達してさー…あ。お父さん?うん、いやなんでもない。うん、お姉ちゃんなんか今超忙しくって出れないんだって。はいはい、また後で電話するねー。はーいバイバーイ。」


ガチャリ。


「ちょっと。お姉ちゃんどうしたのよ!面倒くさすぎ!!」

「これ…みてよ。アイツが贈ってきたヤツ」

「誕生日にお父さん贈ってくれてたヤツじゃん。なに、馬の生首でもはいってたっていうの?ふふふ。って…なんだかなあ…ラッピングされてないしメチャお父さんらしいなあ…。ん?なにこれ…袖なしのケミカルウォッシュのGジャンですか…。これはちょっと…無いわね。」

「あいつマジなんなのよ。フーターズで働いてるのが気に食わないんだよ。男が寄りつかないようにっていうことなの?好きでこんなバカみたいなバイトやってるんじゃないわよ。そんなことすんだったらさ、もっと稼げっていうんだよ。本当なんなの、あいつ…」


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「ふう」
「伝吉さん、誰に電話してたんスか」
「娘」
「へえ。娘さんいるんスね。いくつなんスか?」
「20と18」
「ふーん。2人姉妹っすか。女ばっかりかー。奥さんも楽しいんじゃないです?一緒にショッピング行ったりするんでしょ。なんか憧れるよなー。」
「嫁は死んだ」
「あ。そうなんスか…ごめんなさい…」

「……」
「……」

「…イイ嫁やったわ。ワイはまあこんな人間やん?昔っから仕事一筋でやっとるからな、世間ずれしとんは自分でも解っとんねん。いっつも臭いし汚いし。そんでまたワイがそういうのを全然気にせえへんやん?困ったもんやで。でもな、あいつは『そんなアンタが好きやで』って言ってくれたんや。ほんまな、蓼食う虫もなんとかかんとかっていうやつやな。ははは。でもなあ…まさかあいつが…癌に蝕まれてるとはなあ。ほんま直前まで元気やったんやで。人間て不思議やわ。あいつわかっとたんかなあ。とにかく最後の最後まで気丈やったわ。ワイらに心配させへんようにしとったんかなあ。もしそうやったら…最後ぐらい人のこと気にせんでもええのになあ…」


「ステキな奥さんですね…」


「うん、ほんまワイには勿体ない嫁やったわ。ふふふ。ほいでな、今日、娘が誕生日やったんよ。ワイがお母さんと初めて会うたんが20歳ん時やねん。そういうこともあってな、そん時お母さんにプレゼントした洋服贈ったんや。記念やな、記念。あん時のお母さんかわいかったわ…。今でもはっきり覚えてるわ。めっちゃ喜んでくれてなあ…。」

「伝さん…娘さんもその服似合いますよ!!」


栗山はその時初めて伝吉のことを「伝さん」と呼んだ。
伝吉もそれを許してくれそうな気がした。
昔っからの仲間うちでだけ呼ばれてるあだ名「伝さん」。
こんな若造の俺にプライベートな話をしてくれた。伝さん。
ようやくチームになれた気がした。

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フーターズのテレビモニターに暴走列車が映し出される。


「あれ??あれ!!!??ちょっとお姉ちゃん!!!テレビみて!!!!」

「はーい有難うございましたー。ん?なによもうアイツ、こっちは太客の相手してんのに。え……え…!??お父さん……!!??何やってんの!!!!」


そして---
袖なしのケミカルウォッシュのGジャン着てモニターに向かって祈る伝吉の長女。
果たして伝吉とその相棒の運命は!!!

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いきなしの妄想ごめんなさい。


今作に大して色々いうのは野暮天なのは解っております。解っておるのですが…まあ本当にごめんなさいとしか言えないわけで。
全く楽しめなかったわけではないのですが、もうちょいツイスト欲しかったなあというのが率直な感想。結果勝手にシナリオ妄想してしまいました。相棒の家庭の話も思った以上に深刻じゃなかったり、あとさ、最後の最後で、列車搭乗組と追っかけ組と司令部の歯車がガッチリはまって問題解決!みたいな展開が欲しかったなあ。そこまで妄想しちゃうとものすごい分量になりそうですし、そもそも、一銭にもならないことに対して何故こんなにウンウン唸らなければならないのかと冷静になってしまったので、とりあえず、伝吉家の妄想だけ記しておきます。阿呆か、俺。


まあ、本当にですね---


野暮天なのは重々解ってるんですけど。
んとにごめんなさい。