EXIT THROUGH THE GIFT SHOP

まあ例によって観てから読んで頂けたほうがイイかなと。

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大英博物館に行った時、わりと心の底から不快感をおぼえた展示コーナーがありまして、それはどういうものかといいますと「アフリカ美術の今」みたいなコーナーでして、そこにはどんなモノが展示されていたかといいますと、市井の人々が廃品を利用して創った作品の数々が展示されてたわけです。
さて、そのコーナーにおいて、ヨーロッパの知識人の方々はどのようなことを主張されようとしてたのでしょうか。ワタクシ個人的には「人類は暗黒大陸という劣悪な環境下においてさえ、身近な材料を使って作品を生みだそうとするのです。なかなかやるよね、土人」的な、なんともいいがたい超・上から目線のメッセージを傍受せずにはおれませんでしたのです。

実際問題、世間一般でいわれる「芸術」とは、結局のところ「西洋の芸術」なんですよね。「西洋中心の芸術」ではなくって「西洋そのもの」。西洋の外側にある芸術って、根本的には西洋に対するカウンターとしてしか意味を成さない。もう一度書きますけど「西洋ありき」とかそんなレベルの話じゃないのです。「西洋そのもの」なのです。「芸術」という言葉は「西洋」を内包しているのです。


で。


村上隆」という賛否両論渦巻く――というか、ワタクシが耳にする分には圧倒的に「否」の意見が渦巻きまくってる芸術家先生がいらっしゃいますよね。
彼の作品のコンセプトって、ようはそこを突くことによって成立している。「非芸術=非西洋芸術」を武器にして「芸術=西洋芸術」にテロルを仕掛けている。んで、ここがスゴい大事なポイントなんですけど、彼は―先に挙げたように―「芸術」というものはどうあがいても「西洋」のものだときっちり認識してやってらっしゃる。

「んなこと言っても意味なくね?自分じゃ何も生み出せないヒゲメガネがヲタを喰いモンにしてさ、そのくせ自分だけお金と名声を手に入れてるなんてとんでもねークソハイプじゃないかーー」

ん。それは全くその通りだと思います。でもさ、ハイプで在ることさえテロ行為の一環なのかもしれません。グローバリゼーションに対するローカリゼーションの闘い。ワタクシ、彼の作品自体は全く好きではありませんが、その闘いを全面的に否定することは出来ません。
例えばです、東南アジアの人が日本人に憧れてビミョーに中途半端な日本の真似してるのを目にしたら鼻で笑ったりするでしょ?「猿が足し算できましたー」的なニュースを目にしたら超・上から目線で微笑ましく思うでしょ?根本的にはそれと同じ構図があるんだよ?オレ達は鼻で笑われてるんですよ?それでも尚「我々は卑近なアジア人とは一線を画している。我々は西洋人だ」みたいな顔して生きていきます?それってなんか……勘違いしてなくないですか?そんなカンジで自覚なく媚びへつらう態度より、スノッブな連中に寄り添ってるようにみせて、裏では舌だして金をぶったくろうとするほうが誠実ではないでしょうか?

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えと、何が言いたかったのかといいますと、もしかしたら「EXIT THROUGH THE GIHT SHOP」を観て【村上隆をミスター・ブレインウォッシュになぞらえて批判し痛快な気持ちになる】という言説が出てくるのではないかなあ?と思ったのです。そして、もし、そのような言説が出てくるのなら、それは少し違うのではないかなあ?と思ったのです。

だってさ、ミスター・ブレインウォッシュって完全に「空虚」なんですもの。彼に闘争の意思は微塵もない。あるのは「ただ単に有名になりたい」という稚拙な自己顕示欲のみ。システムの構造を知り、闘いを挑んでる村上氏とは大きく違う。だから、ミスター・ブレインウォッシュと村上氏を同列に置いてしまうのは――ちょっと危険な気がします。


と・い・う・か、ミスター・ブレインウォッシュってさ――バンクシーが創った作品ですよね。


バンクシーはミスター・ブレインウォッシュという「空虚な中心」を作り上げ(≒でっちあげ)ニマニマしながらそれをアートシーンのド真ん中に置いてみせた。そのボムは見事に機能を果たし、シーンの空虚さを白日の下に曝した。うーん、なんて見事なテロリストっぷりでしょう。一発の落書きで世界の風景を変えてみせるグラフィティアーティストらしい所業(※)
そして「落書き」というと――って【「落書き」というと】で以下の話をするのは【落書き】に対して失礼な気がするのですが――「落書き」っていうと――ミスター・ブレインウォッシュの作品群ってマジで酷いですよね。「地方都市でのみオシャレ番長たり得る、ヤンキー気質の抜けきっていないウンコみたいな髪の色した美容師が、調子ぶっこきまくった結果、アーティスト面して創ってみせたレベル」級の強烈にダサい作品ばっかでしたね。それってね、「日本が世界に誇るのはヲタ文化だ!最先端をみよ!」つってるわりに絶妙に古いタッチの造型師使っちゃってたりする村上隆氏みたいですね。


うん……村上隆氏みたいですね……


育ってきた環境が違うから、闘争のスタイルの違いは否めない。片や、黄色い土人による在りし日の日本級の血も涙もない怒涛のM&A大作戦。片や、ブリストル出身(?)の兄ちゃんが半笑いで近所のちょっと足りないおじさんけしかけて仕掛けた自爆テロ。でも、ともにぶっ壊そうとしてる対象は同じ。いっつも偉そうにして世界を牛耳ってるような顔してるヤツらの化けの皮はがそうぜ!ってなもんです――ってなってくると村上氏のポジションはビミョーなヴァイブス発してきたりするのですが、でもやっぱし―ミスター・ブレインウォッシュと村上隆氏は全然別モンだけど―今作におけるバンクシーの立ち位置と村上隆氏は似てるような気がしますね。


むむむ。おそるべしかな、コンセプチュアル・アート


あ。でもアレだな、大きな違いがあるわ。村上氏の作品は笑えないけど「EXIT〜」は超笑える!良かった!安堵!

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(※)もし、バンクシーのグラフィティ作品を観たことが無い方いらっしゃったら是非一度みて頂きたいものですね。ゆうてもさすがにグラフィティの切れ味鋭いなーと思いました。あと、個人的には、今作によって「バンクシーは時代を越えるのか否か?」っていう問題が立ちあがったような気がしてて。果たして。


っていうか、ここまで書いといてアレなんですけど、ミスター・ブレインウォッシュってでっちあげじゃないんですか!!??衝撃!!!