武士道とは不条理なこととみつけたり―「一命」―

じつは(?)ワタクシ、海老蔵のことが好きでして、といっても、えびまお披露宴以降なので全然後発で申し訳ないのですが、いやまあしかし、あの披露宴は海老蔵の魅力が凝縮されててマヂで最高でしたよね。とくに最高だったのは、真央が喋ってる隣でカワイイ顔しながらかかとを上げ下げする姿。あれはたまりませんでした。そのさまは、お母さんとご近所さんが立ち話してるのを、隣りで楽しそうに待ってる幼稚園児のごとしでかわいすぎました。
んで、その後のナイナイによる海老蔵話。あれも最高でしたね。あれはもうクラシックですよね。ご存じじゃない方のために簡単に書いておきますと――
『クラブに行った時、友人らがフロアで楽しそう踊ってるのをみてテンションあがっちゃった海老蔵、皆と一緒に踊ろうとしたけど、そういうのは苦手……踊りたいけど踊れない……モヤモヤがマックスに達したその時、海老蔵はフロアで「にらみ」を利かせた!』っていう話。最高すぎます。

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んで、「一命」。これがもうそのようなステキな海老蔵を堪能出来る見事な海老蔵映画でした。孫をみる時のゆるんだ表情は披露宴の時のかわいさと同等。井伊家と対峙する時の「にらみ」はおそらくクラブのフロアでみせた爆発力と同等でしょう。最高です。
ちなみに、今作を観るにあたって、2Dで観るか3Dで観るか悩んだのですけど、「十三人の刺客」の絵作りから想像するに、今作も「日本家屋内の暗さ」を強調した絵作りになってる可能性高いよな、そしたら3Dはキツそうだなと思い、2Dでみたんですけど、2Dでも全然ヨユーで海老蔵飛び出ていました。
そうそう、ワタクシが観た回は、98%ご年配のお客様だったのですが、隣に座ったババア二人組がアレでしてね、なんかいちいち喋ってて大変ウザったかったのですが―「あっ……ほらほら、瑛太の本が減ってるわよ……」とかいちいちうるせーよっていう―、なかでも究極にイラッとしたことがありまして、それは何かといいますと、真隣りに座ってらっしゃったババアのほうが、どうやらゴム底の靴を履いてらっしゃったようで、上映中、足踏みかなにかされてらっしゃったのでしょうか、ゴム底と床がひっついて離れてひっついて離れてひっついて離れてニッチャニッチャニッチャニッチャ音を出し続けてらっしゃったのです。とくに海老蔵が出てないシーンで!!延々と!!なんやねん!!お前どんな態勢で映画みてんねん!!じっとさせたろうか!!はあはあ……すみません、取り乱しまして。でも、なんつうかな、ババアのニッチャニチャは上映中延々続いていたのかもしれませんが、海老蔵が出てるシーンでは気にならなかったのは事実でして、ようするに、今作はそれだけ海老蔵力がビンビン発せられている映画だといえるのではないでしょうか。

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さて、今作のサイトのコメントをチェックしてみたところ、わりと「武士の生きざまに感動した」的な言葉が並んでいますね。しかしです、果たしてこの映画、そのような映画なのでしょうか。というか、ワタクシはこのお話って武士道のナンセンスさを描いていると思うのですがどうでしょう。

武士道がいかにナンセンスかというのは、終盤の大立ち回りをみれば明らかです。大の大人達が一人の男に対して一斉に襲いかかる。そん中で、武士の命的に描かれてた髷はグッシャグシャに踏みつぶされる。それを尻目に、猫ちゃんが家老の座ってた座布団の上でくつろいでいる。というかさ、そもそも論として、大の大人達が襲いかかってる男、その男が持ってるの竹光だし!井伊家の家臣団、卑怯すぎるだろ!!ってカンジです。おかしいですね、武士って。
うん?いやいやわかりますよ。そのような、井伊家の如き泰平の世における武士団の欺瞞を暴いた海老蔵の生きざまを「武士道」って言いたいんでしょ。でもさ、海老蔵(と瑛太)って、はたして「武士道」を体現しているのでしょうか。ワタクシはそこにこそ賛同できないと言いたいのです。例え話をしますと――

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ある日突然、貴方が勤めてる会社にきったない身なりをした―はっきりいうと浮浪者然とした―若者がやってきたとしましょう。で、その浮浪者はぶしつけに言うわけです。「ちょっと御社のインターネットを貸して頂けないでしょうか」と。
窓口になってしまった貴方はしぶしぶ上司に相談します。そしたら上司は「やっかいなことになっても困るし、やむにやまれぬ理由があるのかもしれない。一瞬だけなら問題ないだろうから貸してあげなさい」と言います。その旨を浮浪者に伝えた結果、彼は一通り作業らしきことを行い、何事もなく社を去っていきます。胸をなでおろす貴方。しかし――
それから一週間後、今度はやけにメヂカラのある闖入者がやってきて貴方に向かって言い放ちます。「先日、アイツにネットを貸したのはお前か……お前がネットを貸したせいでアイツは自殺サイトにアクセスし、それがきっかけで死んでしまったぞ!」と。さらには、「そもそもだ、アイツが死ぬことになったのは御社のせいなのじゃ。半年前、我らが勤めていた会社が倒産した。我らが勤めていた会社と取引のあったA社が強烈な円高のせいで倒産し、それに連鎖して我が社も倒産したのじゃ。そのA社が受け持っていた仕事を引き継いだ形になっておるのが御社なのじゃ!同業者ならば我らの痛み解るであろう!!」と言うわけです。そして大立ち回りを演じるメヂカラ男――
って、あのさ、それ原因で大立ち回りされても……それって「武士道」云々じゃなくって「インネン」ですよね。つかさ、メヂカラ男達の勤めてた会社が潰れた理由、うちの会社直接関係ないし!!それ、円高のせいだし!!というかさ、オレ、窓口になっただけで本質的には関係ないよ!!というか、半年前からアンタちょっとでも就活した!??してねーだろ!!?っていう。


つまり、「一命」には、世間一般で認識されてるようなカッコよさげな「武士の生きざま」なんつーもんはそもそも一個もなくってさ、結局、「武士道」つうもんは根本的に欠陥を抱えたシステムだっつうのを描いているのではないでしょうか。だから、海老蔵は「武士道」を捨てて「本当の武士になった」というよりはさ、そもそも武士であるか否かビミョーだった立場を振り切ってただ単純に武士であることをやめたってみるほうが爽快なんじゃないかなあ。重複しちゃうけど、そのサマを、「真の武士道」とか「真の武士の生きざま」的に解釈してしまうのは諸々ボヤけてしまうような気がするんだよなあ(あ、あと愛ね。愛とかなんとかも大事かもしれないけど、特に大事なのはそこじゃなくってやっぱし「武士道のナンセンス」さだと思うわけですがどうでしょうかねえ。なにせ、原作・オリジナル監督、ともに戦中過ごした方なわけですから、所謂「武士道」に対する嫌悪あったと思いますし。機会があればチェックしてみたいと思います)。

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ま、とにかくですね、オープニングタイトルからキャストでてくる段階で、クラシックたり得るオーラをビンビンに発してて、本編ももちろん終始一貫して実に丁寧な絵作りしててとっても良い映画だなあと思いました。個人的にはもう少しケレン味欲しかったなあとも思うのですが、その辺のバランスは難しくはありますわな。
例えば、狼狽する満島ひかりとか最高なんですけど(満島ひかりさんが狼狽するサマって実に素晴らしいですね。満島さんが延々狼狽し続ける映画を観てみたいと思いました)、その辺もうちょいホラーテイストあってもイイんじゃないかなーと思ったり、最後の立ちまわりでの「髷」と「甲冑」の扱いはもっともっとぞんざいにしちゃってもイイと思うんだけどなーと思ったりしたわけですが、そうするとややもすればコメディ色強くなるでしょうから、難しいとことでしょうね。あ、でも、「切腹シーン」は全部チョー良かったですね。「十三人の刺客」の段階で見事な切腹シーンを撮った三池監督。それが今回はメインに据えられてるわけですから、それなりの覚悟はして観に行ったんですけど、それでも尚、思わず目をそむけてしまう見事な切腹シーンでしたね。参りました。