美徳に賭けた勇者たち ―「くたばれ!ユナイテッド」―

イイ映画でした。
「キンキーブーツ」や「英国王のスピーチ」といった一連の英国映画がお好きなら間違いないかと。とりあえず、映像がイイんですよね。雨天のカンジとか、室内装飾とか。「オレがみたい英国の風景」ってカンジで。あと、「さら青」一派(?)の方はブライトンの見事なリゾートっぷりにウホッってなると思います。他んとこの風景との対比が絶妙なのです。ま、そんなこんなで本編だけでも充分楽しんだわけですが、DVDについてる特典映像をみることでさらなるマジックが生まれたわけです。例えばです、本編だけだと、70年代のリーズユナイテッドってチームは、ボディコンタクト一本やりで展開する野蛮極まりないだけの、じつに前時代的なチームとしてしか映らないんだけど、特典映像みるとその印象が変わり――というか、特典映像で語られる部分を本編にチョチョイと盛り込んでくれてたら、スポーツ映画の新たなマスターピースになってたんじゃないの??となっております。というわけで別枠で少し長めの感想を。

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この物語の主人公、ブライアン・クリフ監督は、当時、プレミアリーグ最強チームだったリーズユナイテッドの監督ドン・レヴィに対して過剰なライバル心を抱きます。そして、その強烈な「嫉妬心」が原動力となって、弱小チームをめちゃ強いチームへと生まれ変わらせ、その手腕を買われた結果、なんと!憎みまくってたリーズの監督に就任することになって云々かんぬん――ってカンジで、下からのし上がろうとするクリフと、大御所としてデンと構えるレヴィの因縁ビシバシ漂う関係が、過去現在入り混じってお話が進んでいきます。んでです、二人の間にはなんやらかやら色々あるのですが、対立の根っこにあるのって、結局は「クリフの一方的な嫉妬心」だったりします。これがね、勿体ないんじゃないかなーと思うわけです。たとえ一方的なものであれ、せっかくのライバル関係、彼らをもっと二律背反的に描いていれば、このお話、より一層盛りあがったんじゃないかなーと思うのです。

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本編中、クリフは「監督というよりアジテーター」「野心家のマキャべリスト」の部分を強調して描かれます。しかし、特典映像をみますと、実際のクリフはそれだけの人物ではなかったことがわかります。どういうことかっつうと、彼の作りあげたチームって、細かいパスをつなぎボールポゼッションを高めるという、非常に現代的なチームだったんですよね。でも、劇中、そういう描写は一個もないの。いやね、クリフはやたらと「エレガントなプレーをしよう」ってコトバでは言うんですよ。でもさ、実際のプレーは描かれないのです。だから、彼の言動は「エレガントじゃないリーズ(←これは描写されまくります)」に対するやっかみにしか映らないのです。ホントにエレガントだったのに!!


対してレヴィ。彼は、劇中、リーズの選手・サポーターから「監督というより父」として敬われます。でもでも、こちらはこちらで実際いかなる「父性」を持っていたかは表現されません。そしたらさ、我々、映画をみてる者にとって、ドン・レヴィと彼の率いるチームはどう映るかっつうと――「変革を望まない強烈に排他的な性格を持った家父長制集団」としてしか映らないのです。し・か・し・で・す、実際のレヴィは「ホントに良き父」だったみたいなんですよ!なんたること!16歳ぐらいの右も左もわからん若者を獲得し、以降、ずーっと親身になって育てる――リーズにはそんな選手が沢山いた模様です。あとさ、そんなカンジで手塩にかけて育てた若者が初めてピッチに立つ時には、こっそりと選手の実の両親を客席に招待してたりしたんだって。ステキやん、レヴィ。でもでも、映画を見るかぎりでは、全然そんな印象受けません。ただのヤなオヤジ。かわいそうに。
ちなみにさ、彼の父性ってさ、例えば、リーズの中心選手ブレズナーを上手く使えば全然ヨユーで表現できると思うのです。そう、「THIS IS ENGLAND」でもチョーイヤなパイセン役を演じ切ったステファン・グラハム演じるブレズナーを使えば!
ブレズナーは、新任監督を無条件で忌み嫌うスゲーイヤな選手として描かれています。そのヤなカンジは「THIS IS ENGLAND」に匹敵する絶妙にイヤなヤツ具合。さすがです。でもね、「THIS IS ENGLAND」にあって「くたばれ〜」には無い描写があります。それは、イヤなヤツの影に見え隠れする「幼児性」。これが欠けてるんですよね。もし、それが醸し出されていれば、レヴィと彼が率いていたリーズというチームの本質が表現できるのになー。「イヤイヤ!新しい先生なんてイヤ!父ちゃん帰ってきてよ!」ってカンジでムサいおっさんが駄々をこねる様が表現できていればなあ……うーん、とても惜しい。

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とりあえず、「エキセントリックなマキャベリスト」と「良くも悪くも家父長集団の長」ってだけだと、あんま二律背反じゃなくって、なにより基本どっちもヤな人っぽく映るわけですが、それを「エキセントリック・マキャベリスト・効率的・パスサッカー・戦術家」と「ノスタルジック・家族的経営・肉弾・研究家」の対立にすれば、これはもうフットボールに限られたことではなくなって、すなわち、現代と近過去それぞれの良いとこ悪いとこの対立構造が立ち上がってくるわけです。どっちがイイ悪いっていう話じゃない、各々の美徳がせめぎ合って、より良いところを目指す――そういう事象は、いろんなことに関わってくる普遍的かつ大事な問題なわけですから、そしたらもうさ、それはスポーツの形を借りて別のものを描くことになるわけで、結果、問答無用のクラシックになってたんじゃないかなーと思うわけです。

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追記:ちなみに、クリフは「相手チームの研究を全然しなかった」って描かれてますが―で、そのことは最後まで悪しきこととしてのみ描かれてますが―それも描きようでさ、実際、クリフの作ったチームスタイルって、そもそも相手に合わせるスタイルのチームじゃなくって、自分らのプレーの精度を上げてくもんだから、相手チームの研究は二の次で良かった――的エクスキューズが終盤にでもあればさ、クリフに対してスゲーシンパシー抱くと思うんだけど。