オーバーグラウンドUSA(※1) ―「ランゴ」―

しつこくって申し訳ないんですけど――ワタクシは「サイタマノラッパー」という映画が全然好きじゃなくって。その理由の一つは、劇中、イニシエーションが行われないってところなんです。何も捨てない人間が何かを得ようなんて都合が良すぎます。自分が万能の神かなにかと思ってらっしゃるのでしょうか。なんて胸糞悪いコドモなんでしょうか。というか、実年齢的にコドモなら許せます。アンタ、もういい大人ですよね。アンタのこと「コドモ」つってんのは、アンタの精神力のことを指してるんですよ。完全にアンタのことバカにさせて頂いてんですよ。わかってる?こっちが言ってることわかってる?アンタのその甘ったれた世界認識がアンタをダメにしてんですよ?それを改めなきゃあ何も変わんないですよ?イニシエーション無き意識改革、それって現代日本の在り方っぽいっちゃあぽいですけど全然共感できない(※2)

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いきなり話が逸れてアレでしたが「ランゴ」。
シネコンに組み込まれてるアニメにしては(?)一日の上映本数が少なく、スクリーンも―お馴染みの―小さいところ、それも微妙な時間帯だったので、アレレ?どういうことなの?と思ったんですけど、いざ映画がはじまってみると、冒頭からメタファー全開で――これは中々トバしてるなあ、「基本コドモ向き。だけど大人も楽しめるよ」ってレベルじゃないような気がするなあ、なるほど、このシフトもいたし方ない気がするなあ、なにも「ステキな金縛り」と「三銃士」の煽りを喰らってってだけじゃないなあ――と思いました。でも、実際は、上映中、小さなお子さん結構笑ってらっしゃいましたんで、やっぱ「基本コドモ向き。だけど大人も楽しめるよ」的映画ではあるんですね。良かった良かった。


〈以下、具体的な内容に触れてますのでご注意〉


さて、今作のあらすじはといいますと――殻に閉じ込められていた主人公が、全く突然「世界」に放りだされ、放浪・イニシエーションを経て、アイデンティティを確立した後に帰還し、英雄となる――という大変類型的な神話構造。西部開拓時代っていうのは、そもそも歴史の無いアメリカという国が、ネイティブアメリカンの物語までもかっぱらって作りあげた、彼らにとって唯一無比の神話の舞台なんだなあってカンジです。

というわけで、非常にわかり易いお話なわけですから、全編に渡ってとても安心して楽しむことが出来ました。とくにグイグイくるのはイニシエーションシーン以降。というか、イニシエーションがキモ。アッチ側に行ったとき、ゴルフカートの後ろに無造作にオスカー像放り込んでる西部の精霊と遭遇するシーンはホント最高でした。やっぱ、ハンチクなダメ人間が成長するにはイニシエーションが必要なんじゃないでしょうか。どうでしょうか。


ちなみに、ワタクシ、西部劇ってほとんどみたことがないので、ちょっと覚悟して観にいったんですよね。とくに、メタファービンビンのオープニングみたときには、それがちょっと確信に変わったんですよね。どういう風に思ったのかっつうと――このテンションからすると、おそらく中盤は「ワイルドバンチ」のアグア・ベルデ村の旅立ちシーンみたいなのが延々続きそうだなあと思ったのです。ああいうなんかわからんけどドラッギーなヴァイブスをビンビンに発するホーボーが描かれるとなると――それは結構楽しみだけど、油断したら気持ち良すぎて寝てしまうかもしれないなあ――と思ったんですよね。そしたらです――全く想像と真逆でアクション満載で退屈という衝撃的な展開が待ってました。ヤラれました。油断してました。「ワルキューレの騎行」とともに行われる空からの強襲、はじめは盛りあがったんだけど、途中から、状況が何が何やら訳がわかんなくなっちゃって、結局飽きてしまいました。なるほど、これがパイレーツ・オブ・カリビアン」クオリティなんだろうなと思ってしまいました。残念。こんなことなら、第2パートはワタクシが妄想したようなドラッギーホーボースタイル1本でいってたほうが良かったんじゃないでしょうか。なにかで酩酊しながら楽しむ映像にしてしまってたほうが良かったんじゃないでしょうか。そっちのほうが、第3パートへのタメにもなるし、なにより、引きの絵とかチョーカッコ良かっただけに本当に勿体ないです。一から立ち上げた企画なんだし、結果、劇場側もあんまし大規模上映してなかったんですから、いっそ針振り切って、うっかり観にきちゃった幼子達にトラウマ植えつけちゃうような、超絶アシッドな画像をぶち込みまくった作品にしちゃっててもよかったんじゃないでしょうかねえ。嗚呼、本当に勿体ないです。


と、なんだかんだいってますけど、トータル評価としては全然楽しかったのです。上述のはあくまで希望。願望。夢のたぐい。そんなの無理だってわかっております。でもね、エンディングに「結局、西部は終焉する」っつうのをちらつかせてほしかったなあ――っていうのは、全然実現可能なお話じゃないでしょうか。なんか、そういうカンジの描写欲しかったです。「甘味の中に塩」的な。そうすれば、楽しかった冒険も味わい深くなりますし、なにより、うっかり観にきちゃった幼子達にトラウマ植えつけることが出来るかもしれない。くわえて、手放しにカッコ良きものとされてきた世界の終焉は、現代のアメリカの立ち位置ともシンクロするような気がしますし、ねえ、どうですかね。でも、まあその辺は「アメリカの意地」があるから拒絶されるかもしれませんし、こんなカンジで良しとしましょうか。いや、でもなー、やっぱなー、哀愁つうか無常感感じるテイストを最後にポンと置いてくれてたら、あの超絶にカッコイイエンドクレジットがさらに味わい深くなってたと思うんですよね。そしたら、現時点ですでに「これみる為だけにもう一度本編みたいなあ」と思えるぐらいシビれたエンドクレジットが、さらにさらにそれはもう殺人的に良くなりすぎて、結果、涙涙でみられなくなっちゃう可能性ありますが。とりあえず、あの曲、7インチ出してくれないですかね。2枚買いますよ、2枚。

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【追記】
片目に矢がブッ刺さってるキャラとか、目を覆ってるモグラのオヤジとか、キャラクターデザインかっこいいなあと思いました。これはアレなんでしょうか、「パイレーツ・オブ・カリビアン」クオリティなんでしょうか。かっこいいじゃないですか。あと、個人的にはネイティブアメリカン調の鳥さんがチョー面白かったです。「なになに?精霊と交信してんの?」ってとこが最高でした。あとさ、ナゾの「ナウシカ」オマージュ、あれなんぞ。

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(※1)たまたまジェイムズ・エルロイアンダーワールドUSA」を読了した直後に観たのでこのようなタイトルにしてみました。「アンダーワールドUSA」はアメリカの闇の神話ですね。チョー面白かったです。一気読みしました。ストーリーも面白いんですけど、文章の構成がかなり好き。


(※2)でもアレか。ヤンキーにしばかれたり、他の人に見限られたりするのがイニシエーションなのかな。でもさ、それって全部受動的じゃん。なんか納得いかない。高速道路に飛び出して車にひかれる!!!ぐらい自分を追い込んで欲しいものです。