その浅近なる世界―「ヒミズ」―

とある著名な方が「冷たい熱帯魚」を、全然本質を捉えず、ヘンな方向で過剰に持ちあげちゃったもんだから、誤解されてるような気がするんですけど、そもそも園子温監督って、常人には思いつかない視点を持ってるキチガイじみた監督さんなんかじゃなくって、なんていうんですか、ベタな感性というか、俗っぽい感性というか、中2的モラルの持ち主というか、そういう類いの感性をお持ちの監督さんだと思ってます。
前も書きましたが、「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」「恋の罪」って、「新潮45」がお似合いの題材なんですけど、それを、上述のような感性で――そして、上述のような感性だからこそ、恥ずかしげもなく全力で――描くことで、ナゾの魔力が発せられてる作品群なのではないでしょうか。
恋の罪」は結構お嫌いな方が多いような気がしますが、あの、だから、あの映画って、なんていうんですか、「モラルの枠を超えようとする意志」なんてもんは微塵もないと思いますよ。面白げな絵をドンドンぶち込んで、そして、そこにじつにベタな主張を盛り込む、いわば「恐怖奇形人間」的な作品なんじゃないでしょうか。こういっちゃうと、映画の格として「恐怖奇形人間」が下みたいに聞こえるかもしれませんが、そんなつもりは全くありませんし、実際、ワタクシはそういう作品だからこそ「恋の罪」や「恐怖奇形人間」のことが好きだったりします。

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というわけで、「ヒミズ」がこういう風な作品になるのはワタクシ的には全然予想通りでした。予想通りすぎてビビったぐらい予想通りでした。「どん詰まりの世界をポジティブアクセル全開にして突っ切る」ってのはこれまでと全く一緒のロジックです。今までは、どん詰まりの事件を題材にしてたけど、今回は、どん詰まりの作品を題材にした――それだけの違いです。全然予想通り。そして「後から震災設定を盛り込んだ」という情報を耳にした際に浮かんだイメージも、まさに今作に描かれてるカンジでして、つまり、それははっきしいってじつに貧困な震災のイメージと活用なわけで、全くブレていないと思います。


ですから、そこに落胆するのは――
筋違いというか――
園監督はずっとそういう監督だったんですって!!
皆、幻想持ちすぎ!!


この映画の問題って、むしろ、園子温節の弱さが問題なんじゃないでしょうか。ワタクシがこの映画に求めていたのは、窪塚くんの「脱!原!発!」キックのようなもの。ああいう、ホンッットどうしようもない下世話で貧困でフツーなら恥ずかしくって避けてしまいがちな中2的な描写――それを全力でやり切ったことにより生まれる魔法の世界、それこそが園子温的世界だと思います(※)。役者さんを泥まみれにして転げまわらせるとか、雨ん中でビッシャビシャにさせるとか――それはそれでじつに陳腐な役者魂確認作業で園子温監督らしくはあるのですが――そういう方向じゃなくってですね、もっともっと他人の目なんて省みず、中2の貴方が正しいと思った政治的主張なりなんなりを全力で発していけばよかったんだと思います。ま、結局のところ、「震災設定」は後から盛り込んだわけですから如何ともしがたかい部分が多分にあったのでしょうが。しかし、その弊害はとても大きかったですね。後から盛り込んだもんだから、その主張は中途半端になっちゃったし、本来は持っていたグルーヴが損なわれちゃってるかもしれない。そして繰り返しますが、そもそもが、ベタな感性というか、俗っぽい感性というか、中2的モラルの持ち主の方ですから、それがハンチクになってしまった時の惨状っていうのは――まあ通常の被害より大きくなってしまいますよね。


あ、いや、最後はそれでもちょっとグッときましたけど。やっぱ全編に渡って「あのテンション」だったら相当良かったんじゃないでしょうかね。もう一回撮り直したらどうですかね。

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と、なんだかんだ言ってますが、ワタクシ、ハナから「どうせこういう映画でしょう」ぐらいの感覚持っていたので、今作を観賞するにあたっての興味の大部分は二階堂ふみさんがいかにかわいく撮れているかってことだったわけですが、そういう意味では二階堂ふみさんはスゴいキュートで良かったです。茶沢さん感は皆無ですけど、だから、そんなのは全然想像の範囲内ですし。二階堂さんの魅力は、基本的にはとってもキュートなんですけど、時たま全然ブスみえるところです。その隙が良いですね!!惚れた!!

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(※)窪塚くんの部屋に水パイプがゴロゴロ転がってたりしたら最高だったんですけど、そういうベタさも無く。