ぼくのかんがえた「どらごん・たつーのおんな」 FRUiTS ストリートスナップ編 ―「ドラゴン・タトゥーの女」―

感想というか妄想というかネタバレというかなんというか。観る予定がある方は読まないほうがイイんですかね。自分でもわからんです。

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【「FRUiTS」のスナップ写真に掲載された立浪ルミ子さん(19)の話。背中のドラゴン柄のタトゥーが良く似合う小柄でカワイイ女性でした】


立浪ルミ子の両親は、彼女が幼い頃に離婚した。一人娘のルミ子は父と二人で暮らすことになったのだが、父の転勤があまりに頻繁だったため、彼女は高校入学を機に父の元を離れ、当時一人暮らしをしていた祖父とともに生活することとなった。
ルミ子は生来内向的な性格だった。それに加えての転校続き。彼女は行く先々でいじめに遭うのが常だった。彼女が「FRUiTS」と出会ったのはまさにそんな時だった。
授業が終わり、下校の準備をしていると、同じクラスのバカでデブの山下とその仲間たちが、ルミ子を力ずくで押さえつけ、彼女のおでこにマッキーで黒い楕円を二つ書いた。山下たちは爆笑しながら「麿〜麿〜オメーほんと麿みたいだな〜」と囃し立てた。ルミ子は眉毛が無いに等しく薄かったのだ。
山下とその仲間たちがゲラゲラ笑いながら教室を出て行った後、ルミ子は涙が涸れるぐらい泣いた。しばらく嗚咽が止まらなかった。どうすることも出来ず、しかし、まっすぐ家に帰る気にもなれず、前髪を下ろして本屋に立ち寄った。そこで何気なく手にとった雑誌、それが「FRUiTS」だった。


「眉毛がなくてもイイじゃん……というかカッコイイ……!」


ルミ子は衝動的に「FRUiTS」をカバンの中に忍び込ませた。その日は一睡もすることが出来なかった。

翌日、ルミ子は目の周りを真っ黒に塗りたくって登校した。そして、唐突にバカでデブの山下のカバンを漁り、校則違反にも関わらず、いつも学校に持ってきては自慢しまくっていた限定モデルPSPを探し出した。ルミ子はおもむろにポケットから鉄製のこけしを取り出し、山下自慢のPSPの上に振り下ろした。何度も何度も振り下ろし一気に粉砕した。鉄製のこけし――それは東北出身の母がルミ子のもとに残していった唯一のものだった。教師はPSPの破壊を咎めなかった。それ以降、彼女をいじめる者はいなくなった。14才の夏のことだった。

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高校に入ってからもルミ子がいじめられることはなかった。孤独であることにも変わりはなかったが。担任の阪本からは「正直、お前みたいなヤツが一番扱い辛いんだよ……」と言われた。

高2の秋、クラス中が文化祭の準備で浮足立つ中、ルミ子は一人教室の片隅でナイン・インチ・ネイルズを聞きながらトレント・レズナーの似顔絵を描いていた。
「あれ?たつなみ!自分スゲー絵描くの上手いんだな!」
イヤホンごしでも聞こえるデカい声。同じクラスの井上だった。
「ちょーどよかったよ!あのさ、たつなみちょっとお願いあんだよ。今度の文化祭の催し事に使う絵を描いてくんないかな?一瞬みただけでアレだけど、オレ、たつなみの描く絵がスゲー好きかも。うん、絶対いいよ。是非描いてくれよ!」
ルミ子はしぶしぶ了解した。いつもの自分なら絶対に無視していた。井上の勢いに押された部分もあったのだが、彼の顔をみたとき、かれこれ1年以上顔をあわせていない父のことを思い出したのも事実だった。
放課後、井上と二人きりで作業をした。たまにもう一人女がいることもあった。もう一人の女、エリカ。ルミ子とは正反対の人生を送ってきたのは間違いない、天性の明るさを持った女だった。
ルミ子は井上と二人きりでいたいとも思ったが、エリカを含めた3人で過ごすこともやぶさかではなかった。これまでの人生において、散々虐げられ続けてきたルミ子は、悪意や蔑視に対して敏感だった。しかし、井上もエリカも、ルミ子に対する偏見は微塵も持ち合わせていなかった。ルミ子は彼らに対して、純粋に憧れこそすれ、嫉妬を抱くことはなかった。

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文化祭は盛況のうちに幕を閉じた。ルミ子自身それなりの満足感はあったのだが、クラスの皆と一緒に打ち上げに参加することは毛頭考えておらず、ひっそり一人教室を後にした。ルミ子はそのままの足で近所のジャスコに買い物にいった。井上のジャージを買いにいった。ルミ子は、文化祭の準備中、誤って井上のジャージに絵の具をこぼしてしまったのだった。井上は「いいよいいよ」といったが、どうしても新しいものを贈りたかった。ルミ子は井上に似合いそうなジャージを探してレジに持っていった。

「プレゼントにしてほしいんですけど……」
「お父さんにですか?」
「いえ友達に……」
「お友達ですかー」
「そう。大事な……友達……」

大事な……友達……
ルミ子はエスカレーターに乗った。心が弾んだ。自然に笑みが浮かんだ。初めての感覚だった。ふと、吹き抜けの向こう側のエスカレーターに目がいった。そこには、井上がいた。エリカと手をつないだ井上がいた。
ルミ子はエスカレーターを降り切った時、目の前のゴミ箱にさっき包装してもらったジャージを投げ込んだ。龍の刺繍がはいったジャージだった。