もっともヤングアダルトなのは誰? ―「ヤング≒アダルト」―

同監督作品「マイレージ、マイライフ」がスゲー良かったので、期待値相当高めで観てきました。個人的には「マイレージ〜」は2010年ベストに入れる級で良かったのです。なのですが。じつは「マイレージ〜」って「どこが良かったの?」と問われると即答することが出来ず、しばらく考えてその答えを導き出した類いの作品だったりします。ちなみにその答えというのは――「マイレージ〜」は「ヤッピー版ニューシネマだから良かったのだ!」というものでした。
資本主義社会で勝者たることがフツーに良きこととされる世界観――と同時に田舎暮らしが手放しで礼賛されない世界観――の中で生きてきた主人公が「いやいや……でもレイドバックするのもイイよね」と思うものの、もうどうしようもないという物語――つまり、かつてのニューシネマ同様、一度自らが信じた価値感のもとで殉死せざるを得ないカンジがたまらなく良かったのではないか――と思ったのです。
ヤング≒アダルト」はそういう意味では完全に「マイレージ〜」の系譜ではないでしょうか。都会でゴーストライターを生業としてる主人公メイビスさんが、かつての恋人とヨリを戻すため田舎に舞い戻る。そこで起こる様々な事件――って、うーーん、これはどうしても女性版「マイレージ〜」として観てしまいます。んで、そうして観てしまった結果、ワタクシ的には「マイレージ〜」程の破壊力を感じなかったのです。申し訳ないです、すみません……

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いや、一個一個の場面はスゴイ良かったのです。オープニングの音楽の使い方と、その後の展開との絡め方とかチョー良かったし、メイビスさんと元恋人のご家族が接触するシーンは、全部が全部(!)正視するに堪えない超絶に気まずいシーンばっかでしびれまくりました。そして、それに伴ってという部分ですが、メイビスさんのサイコパスっぷりがなんともすんばらしいもので、うっかり彼女に寄り添って見てしまうと狂気に映らない狂気っぷりが見事で感心しきりでした。あ、あと、ディティールの妙とか会話の妙もありましたね。メイビスさんのミニのきったなさとか、インク切れの対処法とかカンペキですよね。「ヤング向けの小説書いてんのよ」「何?バンパイヤもの?」とかも最高ですよね。
なんですけど、どうもコントラストが弱いというかなんというか。うーん。
メイビスさんは、生まれ故郷において、典型的な「プロム・クイーン・ビッチ」として君臨してきました。しかし、彼女は――おそらく多くのプロムクイーン達がその小さな栄光に満足し、狭い世界と狭い価値観の中で老いさらばえていくのに対して――そもそもの理由はなんであれ「ただのバカ」として見られることに悔しさを覚え、街を出ていく決断をしたわけです。でも、メイビスさんの世界観って、街を出て、さらには20年弱経過しているのにもかかわらず、当時と変わらず停滞したまんまなんですよね。都会に出てったら皆一様にリベラル化するかといったら――全然そんなことないですよね。じゃあ、ちなみに、田舎はどうなのかというと――そう。田舎は田舎でいつまでも田舎然とし続けてるんですよね、当然。それが田舎というものですから。変わったことは「ユニクロ」や「サイゼリア」ができただけに過ぎないのです。


時間が経過しようが変わらぬ精神性。
じつにノッペリとしてる。
じつにリアル。
あれ……じつにリアルでイイな、これ……


ワタクシ、今作を観終わった直後、その「何も変わらないノッペリさ」にはまらず、だから、ラストも正直いって「いやでも結局あんたの感性って劇的な変化起こってないよね?」ぐらいのカンジだったのですが、今、まさにこうやって感想書いてる瞬間、このリアルさに感動してきました。うん。このリアルさはスゲー良いですね。人間、過去と折り合いつけたらその瞬間から劇的に変われるのかっつったら――そんなのありえないですよね。そうか。そうか。そうだよ、うんうん。イイじゃん、このリアルさ。つまりさ、「ヤング≒アダルト」の世界観って、まさしく「セカイの中心はオレだ!」っていう「ヤングアダルト」的世界観に対する批評なんですよね。
イイじゃん、この映画。マヂで今書きながら気づいたよ!

そうか。そうか。さらにいえば、ワタクシ、今作のコントラストの弱さって「主人公が女性」だからってとこに原因があるんじゃないかなあと思っていたのですね。女性のヤなヤツという設定がマイナスに働いてるんじゃないかって。でもさ、この「女性が主人公」で「コントラストが弱い」ってのは「男性的なニューシネマ的世界観」に対する批評のような気がしてきました。いつまで経ってもドラマチックななにかを求めてる「ヤングアダルト」から抜け出てない全てのオトコどもに対しての鋭い批評。そういえば、ニューシネマの主人公ってオトコばっかですよね。「マイレージ〜」もそうだし。うーむ、やっぱアレっすね、女性のほうが正しく人生に向き合ってんですよね。いや、実際、常々そう思ってはいたんですけど改めて認識しちゃったカンジです。イイ映画じゃないですか!