青春ミラー ―「桐島、部活やめるってよ」―

ワタクシには「理想とする青春映画像」というものがありまして、それはどのようなものかといいますと、例えば「さらば青春の光」などが理想的青春映画像だったりします。ちなみに「さらば青春の光」、世間一般的な解釈では――モッズカルチャーに絶望した主人公が、バイクとともに崖から飛び降りて自死を遂げる――って捉えられてると思いますが、それとは別の解釈がありまして、ワタクシはその「別解釈」に基づいて「さら青」のことが好きだったりしますので、それがいかなるものかを少し書いておきたいと思います。その解釈とは、日本最強のモッズバンド、コレクターズのリーダー、加藤ひさし氏によるものです。加藤氏はこのように語っておられます。

『「さら青」はエンディングとオープニングが繋がっていて、そこがすげーイイんだよ』と――

つまり、エンディングで崖から落ちたのはモッズカルチャーの象徴であるベスパだけであり、ジミーは身投げしていないというわけです。つい最近まで、自らのアイデンティティの拠り所としていたユースカルチャーと決別し――つまり青年期と決別し――荒野を一人トボトボ歩くジミー……。これはもう、自死の醸し出すなんともいえん青臭さとは対極の、正しく「さらば青春の光」といえる解釈ではないでしょうか……!


つまり、ワタクシにとって青春映画はどうあって欲しいかというと、「若者が、この世界は絶望にまみれていることを知るのだが、それでも尚――例えば、今まで所属していた(偽)安寧的コミューンを捨て去ってまでして尚――微塵の希望もない荒野の中に足を踏み入れていく」というビターな味わいをもったモノであって欲しいわけです。だから、青春映画ってさ、青春の当時者のモノじゃなくって、なんつーかな、その「終わり」を知ってる者にこそ響くような気がしたりします。

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んでようやく「桐島」の話。

今作、始まってしばらくの間は「トリッキーな語り口を楽しむ映画なのかな?」と思って観てたのですが、いやいやどうして、トータルでみますと、想像以上に起承転結がパキッとしてる丁寧な作りの映画でした。「各キャラの紹介→各キャラの掘り下げ→各キャラの隠された表情が露呈されていき物語は一点に集約していく!」展開はじつに見事で素晴らしいものです。特に集約点はたまらんモンがあります。中身は違いますけど「ヴァイブス次第では、2Dであろうとも飛び出てみえる!!」ロジックを地でいく描写。感動的すぎてゾワゾワしてしまいました。

しかし……
アレ?まだ時間あるよな?
ここクライマックスじゃないんか??

そう。こっからのもう一段の展開がマジたまらんかったわけです。まさか第二波がくるとは思っていなかったんで完全に持っていかれてしまったのです。

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ワタクシが高校生ん時、おんなじ学年の陸上部のバカ二人組が、身内ネタとか芸人の既存ギャグをまんまパクってキャーキャー言われてて、挙句その二人組が「俺らお笑い芸人になるわー」つって言いだしたことがあるんですね。そん時は、ホント世界は絶望に満ち満ちているなあと思いました。また、学校帰りの電車の中で、高校内ではイケてるていの先輩女子二名が「神戸のほうじゃミチコロンドン*1着てる人全然いないんだってー」「マジー!ありえんよねー!」みたいな会話してるを聞いたことがあって、そん時も、世界は絶望に満ち満ちているなあと思いました。
そんなこんなですから、ワタクシ的にはヒロキ君の気持ちはちょー解ります。いや、勿論ワタクシ、ヒロキ君みたく「全部持ってるタイプ」なんかじゃありません。でも、彼の絶望は解る。この世は一所懸命やるのがバカバカしくなる事象で溢れかえっている。「全部持ってる」っていってもぶっ飛ぶぐらい突出した何かを持ってるわけじゃない。だから、結局、ヒロキ君はその辺のフツーの人と一緒なんです。だから、ただ流されて生きていくしかないんです――ってことを理解してしまうぐらいはクレバーなんですよね。イイのか悪いのか。
でもさ、今作の中で、ヒロキ君はマジでちょーイイ出会いをしたわけです。これはホント羨ましい。でも全然嫉妬とかは無くってフツーにイイなーってなりました。もう今さらどうしようもないオレの分も含めてちょっと頑張って欲しいなあとしみじみ思っちゃうぐらいイイなーってなりました。あー。本当に羨ましいなあ。

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と、かように現実とフィクションが入り混じってしまうぐらい、ヒロキ君はじめ、今作の登場人物の皆さんのリアリティ具合はじつに素晴らしいものです。映画部は映画部らしく、バレー部はバレー部らしく、バトミントン部はバトミントン部らしく、帰宅部帰宅部らしく、つか、いたわー、「うんこ」をポップに言えるヤツ、んで、結局モテる層のリアリティっぷりっつーのも本っっ当絶妙すぎて悶絶しまくりました。
これってもうキャスティングの段階でズッ嵌まってるんですよね。大後寿々花さんとかマジやべーなと思って、だってさ「先輩、演奏してるとこみたら皆絶対好きになりますよ!」とか言われんですよ。それ若干ディスじゃねえのか!?「顔の下半分隠れてたらイイカンジですよ」って捉えられてもいたし方ないんじゃないか!?ってなりませんかどうですか。あ、でも、大後さんの出演してはるカットはそれを補ってあまりあるぐらい(?)全部ちょー良かったりして、ホントじつに絵になるカットばっかで素晴らしいんですよね。物語上でもスゲー重要だし、最後には爽やかな風が吹くし、ホント良かったですね、大後さん!


それにしても、吹奏楽部の練習が呼び起こす放課後感ってホントたまんないですね。もうこの映画の世界から出たくないレベルで好きです。

*1:正確にはブランド名失念。貴方の思う化石ブランドを当てはめて下さい