そつなくちょー面白いウソ映画 ―「アルゴ」―

まず余談。
じつは、この度はじめて「上映不具合」に遭遇しまして。或るシーンで字幕が止まっちゃって、そっからは映画本体は進むのに字幕だけが微塵も動かなくなっちゃったのです。結局、不具合出たとこから、15分戻ってからの再上映って形になったのですが、そんなこんなもあり、細かい部分が飛んじゃってるかもしれないなあってカンジの感想です。それにしても、巻き戻ってからの2回目はドキドキしました。不具合発生したのが、わりかしドキドキするシーンだったんですけど、それに加えて「もう一回字幕止まったらどうなるんだろう……イヤだなあ」って思いながら観るわけですから、ねえ。お得だったということにしておきましょう。


以下本題。内容踏み込みあります。
未見の方はご注意をば。


さて。ベン・アフレック監督作品、前作にあたる「ザ・タウン」に関しては、良い評判を沢山耳にしていたのですが、様々な意見から総合的に判断した結果、どうやらワタクシが好きな映画かどうかはビミョーっぽいなあと思い、結果スルーしたのです、が、「アルゴ」は予告観た時、即時にこれはちょー面白そう!映像も音楽もプロットも全部面白そう!となりまして、極力情報をシャットアウトして早めに観に行って参りました。結論から言いますと、「アルゴ」ちょー面白かったです。そつなくちょー面白かった。
まず、オープニングですね。オープニングというか、丸っこいクラシックワーナーロゴですね。この段階でテンションガン上がり。このロゴで始まって予告で流れてた映像でしょ?そんなもん間違いないですね。んで、音楽。音楽も予告から想像してた通りちょー良かったです。ハリウッドパートで流れる、ストーンズ、ダイアーストレイツ、スペシャルズ、一曲一曲はすんごい短いですけど、それでもテンションあがりますね。なぜか英国勢ばっかですけど。中でも極めつけは、Hip-Hug-Herと、それバックに登場するジョン・グッドマン。これがかっこよすぎます。つか、ハリウッドパートのジョン・グッドマンアラン・アーキンによるジジイのシニカルハリウッドギャグ、全部最高です。加えて、ニセ映画「アルゴ」の絶妙なパチモン感。とにかく前半は笑いどころ満載です。
が、主人公がイラン入りしてからは一転緊張の連続。このサスペンス描写の塩梅も絶妙なんですよね。謎の電話とかさ。家政婦さんの動向とかさ。挙句『ギヤが入らない……!!』なんて、もううういい!充分緊張したからもういいよ!!ってなりましたね。と、緊張の連続と思わせといて、やっぱちょいちょい笑いもはさんでくるんですよね。『もっとGメンみたいな人かと思った』とか。ホント、小憎たらしいぐらいそつなくちょー面白いですね。2時間あっちゅう間に終わっちゃうぐらいそつなくちょー面白い。そう。そうなんですよ。そつなくちょー面白いんですよ。ちょっとさ、そつなくちょー面白すぎるんじゃないですかね。なんか足りないっていうか、あのさ「そつなくちょー面白い」ベースで言わせてもらいますが、あのですね、この映画、物語を上手くまとめすぎてねーか?つかちょっとイラン人蔑視してねーか?と思ったわけです――


中盤、主人公達が、脱出作戦の一環として、イラン国内最大のバザールに向かうシーンがあります。その道中、彼彼女らは、已む無くイランの民衆がデモを行ってる中に突入せざるを得なくなっちゃう。でさ、そのデモしてるイラン人達がさ、そろいもそろってイイ顔してるんですよね。歯の抜けたきったねー身なりのおじさんとか、ヒステリックなおばさんとか。なんかさ、扱いが土人ぽいんですよね。あのさー、アメ公さん達よー、そもそもテメーらの陰謀が原因でイランは政情不安に陥ってんのに何そのカンジー。さらには、終盤の空港での取り調べシーン。言葉が通じず怯える主人公達って時点でちょっと蔑視っぽいんですけど、ま、話を進めますと、すったもんだあった末、イラン革命軍兵士に「アルゴ」の絵コンテ渡すんですよね。そん時のさ、革命軍兵士の喜び方の描写がもうさ、完全に土人扱いなんですよね。勿論、その辺に関して、エクスキューズ入れてるのは解ります。自国民のDQN行為も描いているし、イラン人にもイイ人がいるってのも描いている。でもさ――


あのさー、アメ公さん達よー、ちょっといいかなー、なんかー、貴方達ってー、「西洋>イスラム」って視点あるじゃないですかー、それってちょっと改めたほうがイイと思うんだー、例えばー、今現在に残ってるギリシャ哲学の原本ってー、ヨーロッパに残ってたものじゃないって知ってるー?あれってー、貴方達の先祖がー、DQN行為働いてー、過去文献をシコシコ焚書坑儒してるあいだー、イスラム世界に伝播してたものがー、逆輸入してきたものなんだけどー、その辺に対する敬意がどおおおおも足りない気がするんだけどー


例えばです、終盤、主人公達の尋問をおこなう兵士にです、『俺のオヤジは映画が好きだった。しかし、パーレビ国王政権下に政治犯として処刑された。お前達は是非イイ映画を作ってくれ。そして、完成した暁には是非俺にも観せてくれ』なんて言わせていれば、この映画の価値はワタクシの中ではオールタイムベスト級に跳ね上がったかもしれません。でも、それってあまりに脚色が過ぎなくね?うーん。ワタクシは、尋問をおこなう兵士にそのような発言をさせることは――表面的には過度な脚色に映るかもしれませんが――「アメリカのせいで国家がグシャグシャになった」ということを表現するにおいては真実の描写たり得るし、また、そういう描写をし、物事を複雑な状態に保つことこそ誠実な態度ではないかと思うのです。勿論、単純化のすべてが悪いこととはいいません。しかし、単純化は、時に問題の本質をぼやかすことにもなると思うのです。実際、この映画は、ホントかウソかっつーと、やっぱ或る視点からしか語られていないウソだと思います。いや、ですから、そつなくちょー面白いってのは大前提なんですけどね。