「キャビン」とその予告について

具体的な内容に関してはあんまし触れていないのですが、構造的な部分に関しては言及しておりますのでご注意下さい。


――さっそくですが、「キャビン」の予告問題です。はたして、この作品の予告は本篇の魅力を削ぐような出来なのでしょうか。その辺りについて少し考察してみたいと思います――


まず最初に――
ワタクシ、「キャビン」に関しては――多くの方々同様――事前に「予告のネタバレっぷりがハンパない」という情報を耳にしまして、その段階でキリリと身構え、とりあえず、予告及びその他諸々の情報は完全シャットアウトした状態で本篇鑑賞に臨んだ次第でした。そして、見終わった後、『はたしてどこをどれだけみせてたんだろう』と気になり、そこで初めて予告をチェックしてみた――という次第でした。ちなみに、『本篇のこの内容から鑑みるに、もしかしたら日本版の予告と本国アメリカ版の予告って結構内容違うんじゃないかなあ?』とも思いましたので、youtubeなどでそれぞれのバージョンをチェックしてみましたら――これはちょっと予想外の結果だったのですが――どちらもわりかしおんなじカンジで、粗筋をバンバンみせていたのでした。しかし。本篇のどの部分をピックアップしているのかを冷静に観察しますと『なるほどなるほど。そういうことか』と大変合点がいったのです。どう思ったかっつーと、つまり、あの見せすぎ予告って、いわゆる「ミスリードつーか「フリ」つーか、そういう類いのもんなわけで、ですからアレはアレで全然イイんじゃねーかと思ったわけです。


ようするに――
ワタクシは先程「この作品の予告は粗筋をバンバンみせている」と述べました。しかし。逆におもくそ隠されてる要素ってのがあるんですよね、実は。それは何かといいますと――「笑かす」という要素に関しては全力で隠しているんですよね。そこなんですよね。そこ。そこ大事。そこが一番大事。この作品における予告と本篇の関係って以下のような関係なんですよね――


つまり――
予告では【この映画は「ただのホラー」ではない!!「メタホラー」なのだ!!覚悟しとけ!!!】と言っといて、フタを開けてみれば、本篇は【「ただのホラー」ではなく「メタホラー」――でもなく「メタホラーコメディ」だった!!】という仕掛けなんですよね。うーん。してやられました。このカンジ、ワタクシ断固支持させて頂きます。例えばさ、『あんなー、この前ちょーウケる話あったんやけどー、マジ鉄板やでー、思い出しただけでちょー笑えるわーククク』なんてカンジで話を始められる方いらっしゃるじゃないですか。ワタクシなどは大変狭量な精神の持ち主ですから、導入部において、そのようなスタートを切られる方と対峙しますと、大概『ボケるんやったらヘラヘラすんな!真面目にボケろや!ゴルア!』と思ってしまいがちなんですね、申し訳ないのですが。つまり、「キャビン」はそれとは対極、「いまからオモロイこと言いまっせー」って顔はちーとも見せず、あくまで真剣な顔して話し始めてらっしゃる。大変ステキですね。そして勇気がある。
つかさ、そもそも論なんですけど、「ネタバレネタバレ」つう言葉を耳にしてから、本篇のオープニングみりゃあ、何に対してどうネタバレといってるのか解ってしまいますよね、正直。だから、あの予告に関して、あんまし過剰にネタバレネタバレいわんくてもイイんじゃないでしょうかと思うのです。


といいつつ――
ここまでの評価は、どっちかっつーと本国アメリカ版の予告の評価でありまして、日本版の予告は似て非なるものだなあって気になってきました。おんなじように粗筋みせてても全然ベツ。つまり、日本版の予告は、アメリカ版の予告における【この映画はただの「ホラー」ではない!!「メタホラー」なのだ!!覚悟しとけ!!!】という部分を、バカ正直なのかなんなのか字面通り受け取っちゃって、さらにはそれを殊更強調しちゃったりなんかしてて『おいおいそこは本質じゃないんだけど……』感がハンパないわけです。なんなんでしょう、アレ。ホラー映画のクリシェをなぞってもいないし、説明過多すぎるし、そもそも何あの音楽、ホラー映画かっつーの
もしかしてアレなんですかね、『クラシカルなホラーやと思ってみてみたら全然ちゃうやんけ!詐欺じゃ!!!』みたいなクレームが発生する可能性を避けるためにあんなカンジにしたのかな。もしそうだとしたら心底イヤな話だし、じゃあもういっそ「笑かし」の要素もいれとけばいいのに。ヤボに変わりはないんだから


というわけで――
日本版の「キャビン」の予告は、輸入する際におもくそ誤訳しちゃってるのが問題なのではないでしょうか。全然「笑かし」へのフリとして機能してないんなら全く意味なし。「みせてる量」云々が問題なのではなく…………いやでもやっぱ見せすぎも問題だわ!!やり直し!!というわけで、以上「キャビン」の予告問題でした。


――ってここで終わりじゃないのが「キャビン」の面白さだと思います。この作品、こっから、まさかまさかでもう一段ツイストするんですよね――


「キャビン」の重要なポイントは、この映画は「ホラーじゃなくってメタホラー」……ではなくって「メタホラーコメディ」……で・も・な・く・っ・て……なんと「ベルセルク」だったんですよね。

!!」
ゴッドハンド!!」
「つか、またアンタの仕業かよ!!」

そんなこんなで、主軸部分がツイストツイスト、え?もう一回転すんの!?ってカンジで捻りまくるもんですから、見終わった後、なんかスゲー沢山の映画みたカンジがしてお得だったし、ボリューム感のわりに実際は95分しか経ってなくって時間も儲けたカンジだったし、なにより、はたと振り返った時『あれ?グルグル回ってる間、きづかんかったけど全っ然違うとこに着地してるじゃん!』ってなって、その予想以上のズレ感にアタマがクラッとなって心地良かったしでとても良かったです。冗談抜きで、最初は『バカバカしいなあ』と思いつつみてたのに、最終的には『あんなことを容認してるあんな人たちはダメだし、つか、あんなことを容認してるあんな人たちを楽しく眺めてる観客も同様にダメだし、やっぱ人類ってダメだよなあ』とメタ的批評してしまいたくなるぐらいのとこに着地してたわけですから、うん、素晴らしいですね。ヒロインの方も話が進むに連れてどんどんカワイクなるし、ホント有難うございました。ごちそうさまです。