「凶悪」の凶悪さについて

「凶悪」という映画は「冷たい熱帯魚」及び「復讐するは我にあり」の系譜にある映画なのでしょうか。ワタクシはそれちょっと違うんじゃないかなあと思うのです。と、オブラートに包んでみましたが、あきらかに根っこ違うやん。全然違うやん。だって「冷たい熱帯魚」と「復讐するは我にあり」は、ある種の青春映画じゃないですか。「凶悪」にそういうテイストあるかっつったら希薄で、印象としては「今現在の日本の有り様」を切り取った「社会的な作品」ってカンジのほうが圧倒的に強いと思います。勿論、共通する部分はあります。超絶に優れたエンターテイメント作品であるという意味では全然一緒です。だから、まあ「※※系」って言う分にはいいとは思います。でも、「系譜!」とまで言われるとちょっとどうかなあと思わざるを得ないというかなんというか。というわけで、「凶悪」の「社会的な作品」面と「エンタメ作品」面についてまとめてみます。


まず、「社会的な」面についてです。
ワタクシ、つい最近、クラシックである深作欣二監督作品「暴走パニック大爆発」をみまして。んで、ちょー面白いなあと唸った点がありまして、それは何かと言いますと、映画本編の面白さに加え、1976年当時の三宮と大阪の風景が超絶に面白かったのです。この感覚ってここ最近の映画ではあんまし感じたこと無かったんですよね。例えば、「冷たい熱帯魚」で描かれる風景って、リアルな部分はあるけど基本的には――作品のテイスト同様――「劇中でのみ成立する景色」の色合いが濃ゆいんですよね。他のケースですと、80年代の風景を忠実に再現してる作品などがあったりするわけですが、逆に今現在の風景を残してる作品ってのはあんまし無いような気がします――なんてことを感じてたタイミングで「凶悪」を観たわけですが、そしたらこれがもう奇跡的というかなんというか、「凶悪」では今現在の何気無い風景が見事にパッケージングされており、静かに興奮したのでした。何気ない郊外の街。何気無い住宅。何気無い寂れた工務店うちの会社にあるのとおんなじ焼却炉。今まさに目の前にある風景。後々「あ。当時こんなだったわ」となること間違いない風景。これって、今観ている観客にとってもちょーリアリティあってイイと思うし、アーカイブ的な意味でも重要だと思います。そして、「風景のパッケージング」というのは、以上のようなそのまんまの意味に加えて、比喩的な意味でも当てはまるのです。それはどういうことかといいますと――
ワタクシ、この映画が始まってからしばらくの間は「どうして山田孝之演じる新潮45の記者の家庭事情を描くのだろう。こんなの別にいらんやん」と思っていました。しかし、最後までみてようやく「嗚呼。なるほどそういうことか」と思ったのでした。鈍感ですみません。つまり、山田孝之家の描写、及び、実際の事件から改変された或る人物の設定というのは、現在の日本における「良き老後のモデルの無さ」をパッケージングする為のものだったのです。凶悪だなあ、これ。ほんっと凶悪すぎます。もし、未来の人が「凶悪」を見た時「当時の日本って大変だったんだなあ」と思えるようになっていたら良いのですが、今の段階では、インフラ面においても思想面においても全然練られておらず、一向に改善されてく気配がなくってほんとイヤな気持ちになりますね。なんかこのまんまだったら、未来の人も余裕で「当時も今も変わんねえなあ」って感じるような気がするなあ。嗚呼ほんとイヤだなあ。

あ、当時云々に関連してのことを書いておきますと、後世の人にとっては何の何かが全くわかんねー「今が旬のタレントをねじ込みました的キャスティング」が無いのも大変素晴らしかったです。有名どころ以外のキャスティングですと、瀧さんの内縁の妻役の女優さんがたまらんもんありました。あの顔立ちとあのボディ。最高です。というか、あの方、大学時代おんなじゼミにいた中谷さんそっくりで、中谷さんもおっぱい大きかったんだよな。COMA-CHIとか中谷さんとかワタクシの中ではあのタイプの顔立ちの女性は完全におっぱい大きい人ですね――


って、話が逸れちゃいそうなので、そろそろもう一個の課題である「エンタメ」面での素晴らしさについて書いてみたいと思います。
これはもうピエール瀧さんがヤバかったです。最っ高にヤバかったです。リリー・フランキーさん演じる先生もちょーヤバいし、つか、トータルでみた時はリリーさんに軍配あがると思いますが(とくにリリーさん登場シーンは最高でした)、こと「エンタメ」的役割という点においては瀧さんに軍配あがるかなあという印象です。つか、これちょっと先の意見と矛盾しちゃうのですが、ピエール瀧という人物のベースを知っているがゆえにポップさ増してみえてるような気もするんですよね。普段の瀧さんの佇まいがブーストかけてる部分あるのかな。ピエール瀧のことを全く知らん方の意見聞いてみたいところです。
ま、とりあえず、瀧さんのポップさのおかげで、「ぶっこみ」発言はイカンジで軽いし、リンチは子供のイタズラみたいだし、何より何より、山田孝之さんとの面会シーンにおける犯罪の告白がいちいち全部笑えるのです。あれはマジで打率10割で笑えました。でも、衝撃なのは「打率10割だった」ということは記憶として残ってんだけど、あまりにドデカすぎる一発があったせいで、思い出して書こうにも他の安打のことが全然出てこなくなっちゃってて、今まさに衝撃を受けていたりします。その唯一覚えているドデカい一発とは、それはもう観た方は皆さんおんなじだと思いますが、「先生絡みとは全く関係のない余罪をうっかり告白しちゃう」とこが最高に笑えるわけです。困ったことに。いや、別に困らないけど。まあまあとにかく、そこでお笑いエンジンあったまっちゃったもんだから、後は爆笑に次ぐ爆笑で、徐々に改心してきたっぽい瀧が、「俳句を習い始めました」とか言ってみたり、その俳句のクオリティのヤバかったり、つか間髪いれず「ペン習字習い始めました」とか言ってみたり、ってもうさ、文字で起こすとよりコント感増して笑えますね。「どこの時間持て余したおじいちゃんやねん!」ってツッコミ入れたくなりますね。

って……あれ、もしかして、ここでも老人推しになってんのかな……本来はなんの罪もない老人達が嗜むべきものをいけしゃあしゃあと楽しみ、挙句には生の実感を得るなんて……ってカンジで……おいおい凶悪だな……