「思い出のマーニー」

幼い頃に実の両親と死別した12才の少女、アンナさん。繊細な性格で周囲と容易に打ち解けることができない彼女は、夏休みの間、喘息の治療も兼ねて普段暮らしている街を離れ、養母の親類の居る田舎街へと赴きます。


この映画、「良かった!」という意見を耳にしつつも、どこか懐疑的な気持ちで観にいったのですが、オープニングの段階でソッコー引き込まれてしまいました。懐疑的な気持ちを抱いてたワタクシ、なんてバカだったんだろう。
――オープニング、野外学習で女学生達が公園で写生をしています。みな思い思いの友達グループをつくってキャッキャ言いながら絵を描いているのですが、そんな中、主人公のアンナさんはぽつねんとベンチに座り、とても精緻な絵を描いています。そして、彼女は「世界には内側と外側があってワタシは外側の人間……」なんて独白をする。この時点で「これは俺の映画なんじゃないか……!??」とならざるをえない。ならざるをえないです。だって、アンナさんって間違いなく「クラスの皆がみて『面白かった!』なんて言ってるジブリの映画なんて観たくもないし、実際に今までも観たことない。どうせつまんないのに決まってるし」とか言ってるタイプです。絶対言ってるタイプ。それはつまり「マーニー?どうすかね?」つってるワタクシとおんなじなわけです。親近感ハンパない
そんなこじらせ少女のアンナさんが、たびたび頬を赤らめながら*1成長していく映画――最高としかいいようがありません。

田舎街に着いた彼女は―その美しい自然の風景に魅了されつつも―街での生活同様、人間関係を上手く構築することが出来ず、スッキリしない毎日を送ります。そんなある日。彼女は、海の畔に立つ今はもう誰も住んでいないはずの屋敷でマーニーという金髪の白人少女と出会います。出会ったときから心通じ合うアンナさんとマーニー。はたしてマーニーとは一体何者なのでしょうか。実在の少女?それとも夢?幻?


この映画、イビツなところは沢山あるんです。これはもう根本的なところですが、マーニーが金髪白人少女だということから生じる違和感はやっぱハンパないです。アンナさんが「マーニー……マーニー……マーニー……!!!」つって名前を連呼するたび、心のどこかで「この子は何を言っているんだろう。なんだか若干タカラヅカぽい異様な世界観だな」と思ってしまう。また、アンナさんが、明らかにイイ人そうな養母に対して大きな不信感を抱いた理由が「ひとえに金」ということも結構ギョッとした。いや、実際そういうもんかもしれんけど、なんかそこだけおもくそ生々しくって、とてもビックリした。他にも、独白の多さや、マーニーの秘密の解け方がわりと一気にドバッと出てくるところなんかもそんなに美しい構成ではないと思います。しかし、イイのです。全然イイのです。良さが振り切れてるからイイのです。こうまで魅了されてしまうと、色々在る難点も「万人受けするものにしてくれなくて有難うございます……嗚呼、オレだけのマーニー……」という気持ちにさえなるのですから。完全にカルトですね。

アンナさんとマーニーは、月夜の下、ボートに乗ったり、花の売り子のふりしてパーティに参加したりして、とても楽しい時間を過ごします。そのおかげでしょう、しだいに生き生きとした表情をみせるようになるアンナさん。だったのですが――ある日、アンナさんがマーニーの屋敷に行きますと、なんとなんと改装工事が行われているではありませんか。どうやら新しく入居する家族があらわれたようです。呆然と改装されていくサマを眺めるアンナさん。すると突然、マーニーの部屋の窓が開き、中からメガネの少女が現れます。どうやらこの家の新しい住人の娘さんのようです。そのメガネの少女は言います。「貴女、マーニーでしょ!?マーニーよね!!」と。またまた驚くアンナさん。だって、アンナさんは、マーニーは自分の心が生んだ幻の少女だということを知っていたのですから。


この作品、終盤でマーニーの秘密が明らかになり、それまで隠されていたレイヤーがグワッと前面に出てきます。その層、いうなれば「沈殿した記憶の層」とでもいうべきものが露わになり、物語の最上層にのせられることによって、作品全体の景色はすごい深みのある色彩を帯びることになります。その化学反応は本当に凄まじく、ふと振り返ると、アンナさんやマーニーの見た景色や触れた物質は勿論のこと、養母がみてきたであろう景色や、養母の親戚夫婦のみてきた景色さえも幻視してしまい、なんともいえん輝きをみせはじめるのでした。というか、「沈殿した記憶の層」の力はこの作品の外にまで滲み出て、ほんの何気ない日常の景色、例えば、お昼にラーメン食べに行ったら、ボックス席でご家族さんが食事してて、で、小1ぐらいの娘さんが美味しそうにラーメン食べているのをみるだけ*2で、ここに至るまでの物語」と「ここから先に辿るであろう物語」を幻視してしまうレベルの当てられ方をしたのでした――

「ち、ちがいます……!けど、どうしてマーニーのこと知ってるの……?」慌てて答えるアンナさん。「え?違うの?じゃあ部屋を掃除してる時に出てきたこの日記の持ち主のマーニーって誰なんだろう?」メガネの少女は古びた日記をアンナさんにみせます。そこには、月夜の下、ボートで遊んだり、パーティに花売りの子を招きいれて遊んだことが書かれている――。「でも、この日記、ここから先のページが破られてんだよね。絶対どこかにあると思うんだけど……ちょー気になるから探しておくね!」とメガネの少女。マーニーとは一体……!!?

*1:テレビアニメ「キルラキル」も主人公の頬赤らめがヤバかったですね

*2:もちろん本編とはなんの関係もありません。しかし!